第1章 終わりと始まり
福富に存在を知られてからはすれ違う事があると挨拶されるのをきっかけに、新開も含め、挨拶を交わす仲になった。荒北の近況は新開がさりげなく教えてくれる様になり
「この前レースに出たんだけど、順位はともかく靖友君はやるね。」
と、やはり荒北は運動神経は良いようで、ともかく足を痛めず、自転車をとられなきゃなんでもいいと思いながら話をきいていた。
(レースに出たの知ってるって言ったらキレるよな)
そう隣で平然と昼食をとる荒北を見る。レースに出た事を言わないのはきっと知られたくないからだ。
(まだ、なんだろうな)
前に箱学を選んだ理由を聞いた事があり、その時
「何もねーから!」
と言い切っていたのを思い出した。残念ながら私が居たが同じ中学の子もいず野球部もない箱学、その上自分もないと言ったふうな荒北だったのが、今ではすっかり部活に夢中になっているのに
(まだ人に言える程ではないのかー)
と自分はもう言ってほしいのにと残念に思った。
はじめてのレース。ルールもわからねーのに
「聞きたいことがあれば前に来い」
とかふざけた事言って自分だけ先頭走って、心臓やぶれそうになりながら追い付けば
「聞きたい事はなんだ」
なんて聞かれても、そんなんなんだったか覚えてなくてそのままぶっ倒れた。やっと出たレースは順位どころかリタイア。けれど倒れてる間ずいぶんな人数を抜いて来たんだなと思った。
たまたま見つけたのがチャリだっただけで、これで何か見つけられそうな気がしていた。
(けどまだだ)
まだ、足りない。あいつも俺もこんなもんじゃ足りない。
(名を呼ばなくて良かったぜ)
そうあのレースで思ったのを思い出す。
「んだよ」
「レースとかでないの?」
二人での昼休み、名がじっと見てくるのできいてみればそんな事。新開に聞いてとっくに知ってるはずだろうに
「どーだろな」
なのに聞いてこないのは名の優しさだと思う。
「腐れ縁だな」
とポツリと言えば
「何を今更」
と笑いで返してくれる。
「お前、女子と飯食ったりしねーの?」
「荒北よりは人付き合いが上手いのよ」
口達者めと名の頭をぐちゃぐちゃにしてやって、それでも名は笑っていて、こいつが此処に居てくれて良かったと少し思った。