第6章 届けたいものは
「は?」
荒北のいつもの口調に、本気にとられなかったと思い再度
「荒北が好きなの」
と伝える。
(あー、先程新開君をふったばかりだと言うのに、こんなタイミングで言うつもりじゃなかったのに!)
と焦っていた名。何も反応がないと思っているとわしっと頭をつかまれ
「マジか」
と一言。恥ずかしさで何も言えない名はそのまま頷く。
「それは名が言いたいだけで終わりか?」
はたとして顔を上げ、荒北を見る。名前で呼ばれるのはいつぶりだろうか。言いたいだけで終わりと言うのは
「その先はねーの?」
「さ、先って?」
すると荒北は気まずそうにしてから、名を自分の腕の中に納め
「こーゆー事とか」
そして、額同士をくっつけて
「もっと色んな事をだよ」
と意地悪く笑った。
「あ、荒北は好きでもない子とそう言う事、で、できるの?!」
「お前、俺をそんなクズだと思ってよく好きだって言えたなぁ」
男見る目ゼロだなと笑いながら呆れられる。
「まぁ、新開をふる様なやつだもんな」
「やっぱり見てた!」
いや、まぁ、見てたとも、ずっと心配でいたんだ。けれど、自分に自信がなくて、なのに自分が認める奴にしか名をやりたくなくて、なのに
「お前、やっぱ男見る目ねーよ」
「な!」
「俺を好きだって馬鹿だろ」
そんな事を言うのに荒北は常に笑顔で
「そ、その先ってやつもちゃんとやってやるわよ!」
なんて返したら、そりゃまた嬉しそうにするもんだから
「だ、だから荒北もちゃんと言って!」
こちらだって、つい先程あんなに良い男を断ってしまい、会話は丸聞こえだった様だし、こんな状況で内心大変なのだ。
「俺も好き」
きっといつもの様に恥ずかしがって言ってくれないだろうと思った言葉をさらりと言われてしまい
「張り合いない・・・」
「今日はな、無理だ」
そう言うと顔が近づいて、唇と唇がふれ合う。
途端、名は真っ赤になり
「ややや靖友の馬鹿ー!」
と屋上を出ていってしまった。それを見送ると、荒北は体勢を崩し空を見上げ
「ホント、あいつ見る目ねーなー」
と笑えてしまった。
あなたに会えた事、過ごした時間、あなたとのこれから、全てをあなたに捧げられる。
そんな両想いの結果。