第5章 意識してる
俺があいつを構っていたのか。
どうみても負けるであろう喧嘩も、なにか変な事に巻き込まれそうな時も、そういう事にならない様にと目を張っていたのは
(俺の方なのか)
それが荒北が荒れて名に近づかなくなった事がきっかけで、てっきり名が荒北を構っている様に思えていたがそれは間違いで、
(俺、あいつの事。そうか。)
新開にあぁ言われた時だけではない。名をいじめていいのも、思春期の妄想に使うのも、隣にいていいのもあいつに好きだと言っていいのも全て自分だけだと思っていたからこそ周りを蹴り倒してきたのだ。そして高校に入ると夢中になるものができて余裕がなくなり、よく分からなくなったのだ。
しかし新開は友人で仲間。しかも名もまんざらではない様子。たとえ自分が気持ちを言ってもフラれるのがおちか?だからと言って他にくれてやるか?
(は、ねーな。)
けれど今、今の自分はバイクの事で頭がいっぱいだ。恋愛よりも頑張りたい事がある。もんもんとしていても仕方ない。
(やめだやめ!)
あちらも自分を構ってくれているなら今はそれで良い。このままずっと新開と一緒ならそれはそれで良い。それでもこちらとてずっと一緒に居てやるつもりだし
(あいつ泣かしたらぶっ潰す)
友達以上、恋人未満とはこういう事なんだろうか。大切で大切で、付き合うとは思えないが、好きで、一緒にいたい仲。
(言ったって仕方ねーもんなー)
今は部活が一番。名と天秤にかけても部活が勝ってしまう。
(あいつに貰い手の話が来ただけ有り難いか)
と虚しく笑って部活へ向かう。
あれ以来、新開とは気まずくなるかと思いきやいたって普通でいられた。
「もっと怒るかと思ったよ」
「んな事で怒んねーよ。馬鹿か?」
「なら名の事いいのか?」
「よくねーよ!」
はたとする新開。
「けど今は、あいつより部活が大事だ」
どちらも取るなんて事はできない。どちらか一つ。どちらも1つしかないのに片方しか選べない。
「靖友らしいな」
「知った様な事言ってんじゃねー!!」
「はは、ごめん」
笑ってんなとぶつぶつ言っている荒北を見て、荒北らしい答えだと思い
(名はいつ返事をくれるかなー)
と、昨日告白したばかりだと言うのに、その日はバイクに乗ってもとても一日が長く思えた日となった。