第5章 意識してる
そして注文したケーキが運ばれ、美味しいと言っていると新開と目が合う。改めて思うと二人きりなのだ。しかも相手はあの新開で、そんなに見られると恥ずかしくなってしまう。自転車屋と言うから気軽な格好で来たが、こうなるならもっと可愛い格好で来れば良かったなと思って
「ごめん」
とつい謝っていた。
「え?どうしたんだ急に?」
理由を話せばそんな事とあっさり笑われてしまい
「でも、俺のためだったら嬉しいよ」
とまで言われてしまい、デートらしい雰囲気にも酔ったのか恥ずかしさばかりが募ってしまう。
その後、どうせ時間が空いてるならと試作のケーキも頂き、席を移りカウンターで宮田さんと3人で話した。新開の事や荒北の事、話はつきる事なく電話で点検が終わった知らせが入り
「今度は荒北君も連れて来なさいな」
「はい」
とお店を後にした。すっかり緊張が溶けた名は宮田さんがどれだけ素敵だったか、ケーキが美味しかった等を新開に話し
「また行きたいね」
「そう?」
「うん」
笑顔の名に
「じゃぁまた行こう」
と新開が返すと
「し、新開君っ?」
「何?」
「あ、あの。」
不意打ちのように、けれどもごく自然に新開が名の手をとっていた。
「ほら、行こう」
と本人は全く気にする素振りがなく、離すにも強く握られ、そのままにするしかない名。
新開はみるみる内に真っ赤になっていく名を嬉しく思い、バイク屋の近くまで来ると名から手を離した。
「ふふ、ごめんな」
「ううん」
何か言いたげな新開。
「あのさ名」
「あ、新開ーバイク出来てっぞー!」
そして、何か言おうとしていたところに宮田の声が店の前から響く。二人顔を見合せ苦笑し、店でバイクを受け取る。
「ありがとな」
「おう」
そして新開が徒歩ではあるが駅まで送ってくれることになり、二人で向かう。先程の緊張した空気感が甦り言葉が少なくなる。
「名」
「ん?」
「名って靖友の事好きだよな」
思いがけない質問
「好きっていうか、腐れ縁なだけで」
腐れ縁なだけで好きとか嫌いとか考えた事がない。でも、大事だとは思ってる。それが好きと言うことなんだろうか。
そう考えていると新開が言葉を続けた。
「俺は名が好きだよ」