第4章 一度目の夏を
実家で過ごす日々、体がなまりビアンキをおいてきた事に後悔する荒北。仕方ないので普通の自転車を漕いではみたもののなんだか違って腑に落ちない。墓参りに行き、親戚と挨拶を交わし、やるべきことはやったので早々に帰ろうと思った矢先、
「やーすーくーん」
それを止めるかの様に呼ばれてしまう。ガラリと窓を開ければ名前を呼んだくせにチャイムを鳴らしている名。
「あら名ちゃん、いらっしゃい。お祭り行くの?うちの靖友連れて行ってあげて」
「そーします!」
そんな会話が聞こえ、階段を登ってくる音がして
「お祭りに行こう!」
と戸が開く。まず、
「家の前で大声を出すな。戸開ける前にはノックを」
「お祭り行こうよー」
「そして人の話を聞けよ!お前は!」
そう言いつつ荒北も荒北で財布を持ったりと身支度を始める。そして、すっかり大人しくなった名に
「行くぞ」
と声をかけ荒北の母親が見送るなか祭りの会場に向かう。
地元の祭だ、中学の知り合いが居るだろうから祭りは断られるのがオチだと思っていた名。嫌がったら大人しく帰るつもりが、なんやかんや一緒に来てくれたのは昔を気にしなくなったのだと思う。
「たこ焼き、お好み焼き、焼きそば、広島焼き!」
会場につき、目についたものを片っ端から声にする名に
「炭水化物ばっかかよ」
と笑う荒北を見てつられて笑顔になる。食べたいものを食べ、射的で失敗したり、ヨーヨー釣りもしてみたりと、実を言うと荒北と祭りに行くのは数年ぶりでテンションが上がってしまう。そして遊びつくした頃に花火が始まり
「キレー」
とうっとりしている名を見て、
「浴衣姿似合ってんよ」
と照れくさそうに荒北が言った。
「い、今さら?!」
始めから言ってくれたら良かったのに、久々だからと気合いを入れてお出かけ用の浴衣を着てきたのに無反応だった事を少し気にしていたのに、
「今さら言う?!」
祭も終わるこのタイミングまで、ご丁寧にとって置かなくて良い言葉だ。
「うっせ」
「五月蝿くはないよ!」
そう返すと荒北はあんぐりと口をあけ
「東堂かてめぇ!」
花火の音がするなか、東堂は関係ないだの、先に言ってくれればだのの口喧嘩が始まり、
「ま、花火見とけ!」
と荒北が言うなか
「もっと早く言ってよ」
「まだ言ってんのかよ」