第1章 終わりと始まり
すっかり大人しくなった靖友は授業を聞く態度はともかく、終わるとさっさっと帰って行くのを見る限り、きっとその自転車競技部とやらなんだろう。
「部活楽し?」
「・・・・だから近寄ってくんなって」
昼休み、屋上で荒北にそう訊ねる。
「どうなの?」
「人の話きけよお前」
隣に座りお弁当を広げる名。
「毎日行ってるの?」
「あぁ」
「楽しい?」
「分かんネ。」
「辞めちゃう?」
「辞めねぇ」
良かった。と思いそのまま昼食をとると
「・・・・てっぺんが」
「ん?」
「鉄仮面が・・・てっぺんがインハイっつーから」
「うん」
「そこまで」
「ん」
鉄仮面と言うのが誰か気にはなりつつも、靖友にやる気がでたことが嬉しくて仕方なかった。そして
(気にはなるのです)
とついつい過保護だとは思うがついね。つい見に来てしまった。
(やってる、やってる)
部室を覗くと大勢の部員、その部室の隅で自転車を回している荒北を見つける。汗だくで必死にペダルを回して、下を向きっぱなしの荒北。心配した途端、下を向いていた荒北が前を向き、その姿を見て
(あぁ、もう大丈夫だ。)
靖友は大丈夫だ。もうヤンキーになる事も、下手にタイプの合わない友人を作ることもない。この部で何かとやらを見つけられる。そう思った。
「おめさん、誰かに用かい?」
「部員の奴なら呼んでやろう!」
後ろで声がして振り向くと、自転車を持ちジャージを着ているところから部員だと思う男の子が二人声をかけてきた。
「あ、す、すみません!なんでも・・・あ!」
慌てていると部室では靖友が倒れ、水をかけられている。
「またか・・・」
とカチューシャをつけた子が
「先週よりは回せるようになってきたんじゃない?」
と赤毛の子が言う。
「またなんだ・・・」
そう名が言うと
「寿一が気に入る程だし、本人にやる気もあるから」
「伸びるだろうが、あの態度は気に入らん!」
と二人で話だす。
「と、とにかくすみませんでした!じゃっ、じゃぁ」
頭をペコリとさげて部室を後にしながら
(靖友、見込みあるんだ。)
と自分の事の様に浮き足だっていたのに
(前みたいになったら・・・?)
と余計な考えが浮かんでしまう。期待され、怪我をしてしまったら次は立ち直れなくなってしまう。けれど名にはただただそうならないことを願うしかなかった。