第3章 気づいてほしいこと
(部室から正門までの距離って結構暗いんだよねー)
そう思いながら、後ろからタイヤの音の気配がする。スピードが出ている音から自転車部の誰かだと、もしかしたら荒北が来てくれたのかもしれないと思うのと裏腹に、今自分が荒北にとって自転車以上の存在だとは思えなかった。いや、そもそも荒北の好きなもの、特別なものに自分が入るか?
(いやいやいや。そもそも私と靖友の仲だし!)
そうしている内に隣で自転車が止まる音がして
「名」
と名前を呼んだのは新開だった。
「新開君・・・」
「今度は送ってやるって言ったろ」
新開も先週の事を覚えており、少し申し訳なく思った。
「新開君は練習いいの?」
「大丈夫、心配すんな。あ、」
そこで新開は気づく、ロードバイクでは名を後ろに乗らせられない。
「悪い!今日は歩きで!次回はちゃんと普通のやつにするよ。」
「次回は悪いよ。」
「靖友には頼むのに?」
痛いところをつかれた様な気分がした。
「なんだろうね。邪魔したくないんだけど靖友には頼めちゃうの」
変だよねと笑う名に、二人の絆みたいなものを感じる新開。
「名」
「ん?」
「まだ時間ある?」
頷く名に新開はとある案を立てた。
(くそ、こんな日に限って)
一方、未だローラーを回す荒北。今日は送ってくれと来た連絡にどこか浮き足だっていたのかもしれない。
『靖友、代わりに俺が送ってこうか?』
名が部活に来たあの時、新開がそう言って来た。今一番名に近づけたくないが、一人で夜道を歩かせたくもない
「・・・・勝手にしろ」
「本当か?じゃぁ、俺行くな」
と、さっさっと先に帰る新開を見送ったのが先程の事。
(あの野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!)
やっぱり待たせてでも一緒に帰るべきだった。別に新開は悪い奴じゃない、けれど名には近づけたくない。
(あんなんと付き合ったら名が泣くのは目に見えてんだろ!見た目はあぁでも、部屋も片付けられねー女即効ふられんのがオチだろー!!)
あぁ、本当に最悪だと思いながら部活を終え、自室に着き、スマートフォンを見ると連絡が入っており、確認した途端ベットに叩きつけた。