• テキストサイズ

アイナナ夢

第14章 Rey10


10

私が行く場所なんて限られている。
自分専用のレッスン室か家ぐらいしかない。
こんな状態で家になんて帰れない。
そうなると行く場所は一ヶ所しかない。

『…、っ、ぁ……』

レッスン室に入ると我慢していたものが全部出てきそうだ。
人見知りも治ってたと思ってたのに…なんてザマだ。
悔しいのか悲しいのか怖いのか。
理由のわからない涙があふれ出して止まらない。

「零、いる?」
『っ、やま…とさ…』
「入ってもいいか…?」

レッスン室の前にいるのか声が近い。
こんな惨めな姿なんて晒したくなかった。

『…、こないで』
「そう言われて下がれるとでも思ってる?」

そう言った大和さんがレッスン室に入ってくる。
目の前がぐちゃぐちゃで大和さんの顔も見えない。

『み、見ないで』
「そんな弱ったお前さんをほっとけるわけないでしょうよ」
『うる、さい…』
「……はぁ」

大和さんがため息を吐くと、視界がなくなる。
前にもこんなことがあった気がする。

「落ち着くまで泣いて」

大和さんの胸に頭を押しつけるように抱きしめられる。
どうしてこの人の前では泣けるの…?

『うっ、ひっく…あ、く…』
「ごめんな…お兄さんお前のこと甘く考えてた」

大和さんは悪くない。
その言葉が口から出ない。
いっそうのこと私なんていなくなればいいのに。




「落ち着いたか?」

そう言いながら離れる大和さん。
私は長いこと泣いていたらしい。
目の周りがヒリヒリする。

『……うん』
「ひでえ顔」
『うるさい黙れ』
「いつもの調子に戻ったな」

ふざけているのか励ましてるのかイマイチわからない。
でもそれで救われてると思ってる私はおかしいのだろうか。

「話…出来そうか?無理には聞かないけど」
『内容にも、よる…』
「……事務員の零は平気だよな?」
『…あれが普段の私じゃないから』

演じている。みたいなところはある。
…なのに大和さんに対してはどちらも演じていない自分だ。
この違いは一体……。

「少しずつ慣らすしかないかもだな」
『どうしてそこまで私にこだわるの…』
「俺はただ、お前さんにいなくなって欲しくないだけかも」
『…え?』
「あ、いや、今のは忘れてくれ」

大和さんが珍しく少し慌てているように見える。
口が滑ったとか?そんなバカな。

/ 117ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp