第11章 Rey8
「そうだ。お前さんの曲とかないの?」
『ない…けど……』
言われてみればおかしな話だ。
ソロでデビューさせたいと言って、自分の曲がないのだから。
「自分で作ったりとかは?」
『作詞も楽器もできないよ私』
「本当に歌だけなんだな」
『みんなが本気なのに私だけ中途半端で恥ずかしい』
「本気…ね。ん?」
大和さんが何かに気がついたみたいだ。
テーブルの上に一枚のCDが置いてある。
私が置いたものではなかった。
『なんだろこれ』
「お前さんが知らないなら協力者の誰かか?」
『紡さんと万理さんは勝手に入らないから…社長かも…あ』
CDを手に取ると一枚の紙が落ちた。
何か書いてある…メモ、かな?
「"君の曲が出来上がった。それを聞いて練習してくれ"だとさ」
『差出人…書いてないね。私宛なのは間違い無いと思うけど』
「聞いてみるか?」
『…もしかして大和さんも聞くつもり?』
「当然だろ?俺ら共犯だし」
…聞くまで動いてくれなさそう。
私は諦めてCDをプレイヤーにセットした。
そこから流れてきたのはリズミカルだけど、IDOLiSH7とはまた違う雰囲気だ。
音回しから考えて、作曲の人は多分一緒なんだなって思う。
ケースの中に歌詞が入ってる…。
『退屈な日々からサヨナラ…暗闇を照らす光のステージ…どちらの私もホントの自分……見えない明日を切り開く………?』
「なんか零の事を知らないと書けない歌詞だな」
『……とりあえず練習…してみる…』
「これで気兼ねなく歌えるようになるんじゃないか?」
『なんで…?』
今まで通りにしようと思ってたのに何を言い出すんだろう。
あくまで私は社長の奥の手…って扱いだよね?
「Reyとして事務所に出入り出来るだろ」
『……それってもしかして他のメンバーと会うってことだよね?』
「そうだな。社長にはReyとして行動するのは制限されてないんだろ?」
『そ、そうだけど…今更…』
事務所に入ってから約2ヶ月。
未だにReyとして事務所には来ていない。
急に現れたらどうなるんだろう。