第5章 真選組
「え……、片付け?」
「お願いします!」
銀さんは頬をポリポリ掻きながら、小さな声で「まぁ、いいけどよ……」と呟いた。
「ありがとうございます!じゃあ、持ってきたバケツで……ってあれ、バケツは!?」
「井戸のとこに置いてきたんじゃねーの?」
そっか。
銀さんに肩を貸した時に、井戸のところにバケツ置いてきちゃったのか。
またまた自分の阿呆さに呆れる。
「じゃあ取ってきますので!」
私は部屋を飛び出し、井戸へと向かった。
水が入ったままのバケツは、井戸の近くに放置されていた。
「よし……、あったあった」
井戸の近づくと、ぞくっと背筋に悪寒が走る。
沖田さん……。
沖田さんに沈められたことが、すっかりトラウマになってしまったらしい。
しばらく、井戸には近づかないでおこう。
バケツの取っ手を掴み、急いで部屋へ戻ろうとすると、
「お嬢さん、ちょいと貸してみな」
大きな手が現れ、バケツをひょいと持ち上げた。
「あ、銀さん!」
顔を上げると、ニヤリと笑った銀さんがいた。
わざわざ着いてきてくれたのか。
「転んで、こぼしたら大変だろ?服濡れちゃうし」
「あ、ありがとうございます」
銀さんのさりげない優しさが嬉しくて、思わず頬が緩む。
「何だよ、ニヤニヤして」
「ふふふ。銀さんってお優しい方ですね」
「そうか?」
「はい。銀さんはとても優しいです」
私が言うと、銀さんは「ふーん」と興味がなさそうな声を返した。
そして、バケツを持ち足早に歩き出す。
「あ、銀さん!待って下さいよ!」
「あのさ、紗奈」
銀さんは私の方に振り返る。
「優しいとかそういうの、男に軽々しく言わないこと!分かった?」
「え……?あ、はい」
そう告げると、銀さんは再び足早に歩き出した。
耳を少し赤く染めて。