第6章 スナック『すまいる』
「あの、私の出番というのは……?」
「これでさァ」
沖田さんは、私に布のようなものを投げ寄越した。
女性用の着物だ。
淡いピンク色の布地に、桜の花があしらわれている。
「これは……?」
「山崎が女装する時に使う着物でィ」
山崎さんの……?
ほんのりと香る、柔軟剤の優しい匂い。
まるで、山崎さんがすぐ側にいるような感覚を覚える。
「素敵な着物ですね……」
「だろィ?なら、それ着てすまいるに潜入して来なせェ」
「……………ん?」
聞き間違えだろうか。
今、沖田さんが物凄いことを……。
「あの……。もう一度、言ってもらってもいいですか?」
沖田さんはいつもと変わらない表情で、淡々と
「すまいるに潜入して来なせェ」
先ほど口にした言葉を繰り返した。
「いやいやいやっ!さすがに無理ですよ……っ!」
山崎さん達を助けることが、面倒なわけではない。
もしヘマをしたら、沖田さんに本気で殺されるんじゃないかという不安が胸の内にあるのだ。
今度は井戸ではなく、海に沈められるかもしれない。
「私が潜入したって、足枷にしかなりませんよ?」
「人質の代わりにはなるだろィ?」
人質の代わりなのか、私。
沖田さんの威圧感に勝てず、私は静かに頷いた。
「まぁ、死なねェ程度に頑張ってくだせィ」
沖田さんは襖を開け放ったまま、部屋を出て行った。
人質代わりとか言ったのは、どこのどいつだ。
だが、真選組にとっては私の命より、近藤さんや山崎さんの命の方が重い。
それは私にも分かることだ。
近藤さんが亡くなってしまえば、真選組は衰退の一途を辿っていくだろう。
山崎さんも、また然り。
山崎さんがいない真選組は、かなりの痛手になる。
真選組にとって重要なのは、真選組を瓦解させないこと。
則ち、局長の命を死守することだ。
……所詮、私なんてただの女中だしね。
まだ隊士さん達には紹介されていないから、まだ女中とは言えないのかもしれないけど。
ふぅ、と一つ溜め息を吐き、可愛い着物に目を落とす。
仕方ない、真選組の局長を救うためだ。
さっさと終わらせて、近藤さんや山崎さんと共に生還しよう。