第5章 真選組
「明石紗奈さんに、何か御用が?」
「いや、用があったわけじゃないけど……。女中として、元気にやってるかなーみたいな」
またまた頭の中に、クエスチョンマークが浮かぶ。
私と銀さんは初対面のはずなのだが……。
「明石紗奈さんとお知り合いですか?」
「いや。俺の知り合い達から依頼がきてよ。こうして様子を見に来たってわけ。
だから真選組への苦情ってのは、建て前ね」
まぁゴリラの件で迷惑してんのは事実だけど、と銀さんは苦笑した。
「もしかして、依頼された方って……桂さんと長谷川さんですか?」
「え……、当たり。
じゃあ、明石紗奈さんってのは」
「はい、私です」
銀さんは驚いたように、目を丸くした。
まさか今まで話していた人物が、明石紗奈だとは思っていなかったらしい。
「へぇ……お嬢さんがだったのか」
「桂さんと長谷川さん、何と依頼されたんですか?」
「桂は、自分と一緒にいたせいで真選組に捕まった女がいるから、釈放を頼んでほしいと」
「長谷川さんは?」
「真選組の女中になった若い女が、真選組でうまくやっているか不安だから、様子を見て来てほしいと」
優しい二人のことだ。
ずっと、気にかけていてくれたのだろう。
「最初は断ろうと思ってたんだけどな。捕まってんのか、女中やってんのか分からなくてよ。でもあまりにも懇願するものだから……」
「お二人に、ありがとうございますって伝えておいて下さい」
桂さんや、長谷川さんもあまり関わりが深いわけではない。
ほんの少しの時間、話しただけの存在。
だが、それでもこんな私を心配してくれた。
「またいつか、どこかで会いたいです」
「あぁ。伝えとく」
銀さんはニッと笑うと、立ち上がって伸びをした。
「さぁて。腰も治ったことだし……。帰ろうかなぁ」
「あ、待って下さい」
山崎さんが不在の今。
使える手は、とことん借りておきたい。
「お部屋の片付け、手伝って下さい」