第5章 真選組
バケツを片手に持ち、そそくさとその場から離れた。
沖田さんが怖いから。
沖田さんは今頃、土方さんにお叱りを受けているところだろう。
だが今はざまぁ、と(心の中で)笑う余裕すらない。
井戸から少し離れた場所まで逃げ、バケツを地面に置いてしゃがみ込んだ。
怖かった……。
足がカクカク震えていることに、今更ながら気づく。
膝に顔を押し当てると、温かい水がじわりと膝を濡らした。
息をひそめるように、声を押し殺して泣く。
早く部屋に戻って、掃除しなきゃいけないのに。
頭の中ではそう思っているのに、水はなかなか止まってくれない。
袖で目をゴシゴシ擦っていると、
「大丈夫か……?」
遠慮がちな声が聞こえた。
「え……?」
目の前に立っていたのは、銀髪のもじゃもじゃ。
銀魂の主人公様であった。
「うわっ!ごめんなさい!」
泣き顔を見られた恥ずかしさに、慌てて立ち上がろうとする。
が、足に力が入らない。
無理に立とうとすると、足がもつれて尻餅をついてしまった。
「……………っ!!」
恥ずかし過ぎる!!
恐る恐る銀髪を見上げると、
「ぷっ……」
口元を押さえて、笑いを堪えていた。
「あ。今、笑いましたよね!?」
女の子が泣いているのにひどいです、とそっぽを向くと銀髪は笑いながら、手を差し伸べて来た。
「ほらよ」
「あ、すみません……」
銀髪の手に掴まり、立ち上がる。
「何があったか知らねェけど、元気出せ」
「……はい」
そして手渡された、一枚の名刺。
『万事屋銀ちゃん』
「万事屋……」
「俺は万事屋のオーナー、坂田銀時。依頼があれば何でもやるぜ。金さえ積めば、だけどな」
銀髪はニシシと笑うと、私の頭にぽんっと手をのせた。
「何かあったら、ここに来い。可愛いお嬢さんなら、出血大サービスだ!安くしとくぜ」
「ありがとうございます……」
可愛い。
初めて言われた言葉にきゅんと胸が鳴った。