第5章 真選組
私の頭を掴んでいる指の力が、次第に強くなっていく。
沖田さんは、私に何か恨みでもあったのか。
苛立ったように、私の頭を強く掴んでいた。
沖田さんが何に対して苛立っているのか、全く見当すらつかない。
私を溺死させようとしている理由も。
ただ分かるのは、このままでは死んでしまうということだ。
だが、元々病院住まいだった私。
運動なんて、全くしたことがないため、肺活量が少ない。
だから、長く息を止めることなんてできない。
痛い……。
苦しい……。
死ぬかも……なんて考えていると、頭上から沖田さんの声がした。
「おい。アンタは攘夷志士と繋がりがあるのかィ?」
水の中だからか、その声ははっきりと届かない。
私は酸素を求めて、もがくことしかできなかった。
死ぬかも……が確信に変わる。
いろんな過去の出来事が、頭の中をびゅんびゅんと高速で流れていく。
多分、これが走馬灯ってやつじゃないだろうか。
真選組の女中になって、まだ一日も経っていないのに、真選組の一番隊隊長に殺されるなんて。
意識が遠のいていく。
寸前。
誰かの怒鳴り声が聞こえ、頭がふわっと持ち上げられた。
そして誰かの腕に抱かれる。
「おい……!大丈夫か、明石」
「土方さん……げほっ、ごふっ」
うはぁ……。助かった。
土方さんは私の背中を擦ったり、トントンと叩いてたりしている。
鬼の副長と呼ばれてはいるが、土方さんは案外優しいのかもしれない。
「あーあ、何してんですかィ。せっかく吐かせるチャンスだったんですぜィ?」
「吐かせるどころか、殺すところだっただろうが!」
「殺すなんて、人聞きの悪ィ」
人を斬りまくってる沖田さんが言っても、何の説得力もないのだが。
「土方さん、大丈夫です。ギリギリ死を免れたので」
「瀕死だったのかよ!」
私は土方さんの腕から起き上がり、側に転がっていたバケツに水を汲む。
「お掃除が残っていますので、失礼しますね」
幸い、服は首元辺りしか濡れていない。
山崎さんに何か尋ねられたら、適当にごまかせばいいだろう。