第3章 歌舞伎町
「そういや、桂さんって攘夷志士でしたよね。町にもたくさん貼り紙されてるのに、ぶらぶら歩いてて大丈夫なんですか?」
エリザベスと一緒に歩いているのもあり、相当目立つのではないだろうか。
しかし、桂さんは余裕の笑みを浮かべた。
「見つかったら逃げればいいだろう」
「え。怖くないんですか、真選組とか……」
「攘夷こそがこの世のよき行く末だ。怖がっていては何もできんであろう」
「そう…ですね」
桂さんは強い人だ。
自分に自信があって、自分を信じている。
私は……どうだろうか。
うつむいてばかりで、人と関わるのを避けてきた。
飛び降りたのも全部……あの世界が嫌になったから。
私は、いつも逃げてばかりだ。
「桂さんはすごい人ですね」
「当たり前であろう。日本を担う、新たなリーダーだからな」
「新たなリーダー……」
「そうだ。紗奈も一緒に新時代を作り上げないか?」
手を差し述べてきた桂さん。
多分手を握れば、私は桂さんの仲間になれるんだろうけど。
「すみませんが……、お断りします」
私の返答に桂さんはがっくりと肩を落とした。
少し申し訳ない気持ちになって、再び「すみません」と謝る。
「そうか……。残念だ。最近は攘夷志士が流行らないのかもしれんな」
「いえ。流行りであろうがなかろうが、テロ活動するのは嫌です」
「笑顔でばっさり斬り捨てるのだな」
桂さんは落胆のため息を吐いた。
「なら、理由を聞いてもいいか?」
「はい。まず、私には攘夷の志がありません。
私みたいな者が攘夷を語るなど、本当に攘夷を志している人に失礼ですし、足枷にしかなりません」
私の言葉に桂さんは納得したように頷いた。
「そうか。ならば貴殿の志はなんだ?」
志、志か……。
「強い人間になることです。……桂さんみたいな」
今はこれが一番の目標だ。
「俺を目指すのか……」
「はい」
私が言うと、桂さんは満足したように頬を緩ませた。