第3章 歌舞伎町
まず桂さんが案内してくれたのは、「北斗心軒」だった。
「ラーメン屋…ですか?」
「幾松という女店主が営んでいる店だ。ここのラーメンは旨いぞ」
桂さんが暖簾をくぐると、「いらっしゃい!」と元気な女性の声が聞こえた。
桂さんに続いて店に入ると、ふわっと豚骨スープの香りが漂ってくる。
桂さんとエリザベスは空いているカウンター席に腰かけ、私は桂さんの隣に座った。
「美味しそうな匂いですね」
「あぁ。今日は奢ってやるから好きなものを頼んでいいぞ」
桂さんは懐から財布を覗かせながら言った。
「ありがとうございます。じゃあ…、
炒飯ください」
私が言うと、幾松さんはガクッと膝を折った。
「ラーメン食ってくれるかと思えば炒飯って……」
「あ、すみません」
「いや、構わないけどさ……。で、アンタは?」
幾松さんは桂さんに聞いた。
「んー。俺は蕎麦かなぁー」
「……アンタら、ラーメン屋に何食いに来てんの」
「やっぱり炒飯ください」
「お前もか…」
幾松さんはガックリと肩を落としながら、奥にある厨房へと向かった。
「なんか……、すごく申し訳ないんです」
「心配するな。金は使ってこそ意味がある」
「いや、あなたのお金の話じゃないです」
奢ってもらう身なのに失礼だったかな、と思ったが桂さんはとくに気にしていない様子だった。