第7章 バングル…
「あ、ねぇ、弟くん固まっちゃったみたい」
呆然と目を点にする俺の前で、手がヒラヒラと舞う。
「おい、潤?」
「へ? うん…」
「何だよ、鳩が豆鉄砲でも食らったような顔して…」
って、いかにも自分は関係ありません、みたいな顔するけどさぁ…
兄ちゃんのせいじゃんか…
「お前が顔に似合わないことするからじゃね? 大体お前、人前でキスとか平気でするタイプじゃないでしょ?」
翔さんが作業台の上に人数分のコーヒーを用意しながら、まるで俺の気持ちを代弁するように言う。
「えっ、そうなの? こんなの普通だろ?」
当然、と言わんばかりに兄ちゃんが翔さんと俺とを交互に見て、まだ湯気の立つコーヒーを一口啜った。
やっぱり今日の兄ちゃん、いつもと違う。
気心の知れた仲間が一緒だから?
現に、二人とは同じ施設で育って、兄弟みたいな関係だ、って兄ちゃん言ってたし…
「コーヒー、冷めないうちにどうぞ?」
「あ、はい…、頂きます…」
作業台に置かれたマグカップを一つ手に取り、口を着ける…けど、予想外の熱さに…
「アチッ…」
小さく呟いてマグカップを作業台に戻すと、チリチリと痛む舌先を指で摘まんだ。
自分が猫舌だってことすっかり忘れてた…
「火傷か?」
顔を顰める俺の頬を、兄ちゃんのふっくらとした手が撫でた。