第3章 潤…
涙に濡れた頬を兄ちゃんの手が包む。
そして触れるだけの優しいキスを一つ落とし、また俺から視線を逸らした。
「手、出せよ…」
「えっ?…あ、うん…」
兄ちゃんが箱の中からリングを一つ抜き取り、俺の差し出した手を握る。
「お前さぁ…この場合左手出すんだろ? 右手出すやついるか?」
ついつい利き手を出した俺を、兄ちゃんが呆れたように笑う。
「あ、そっか…」
慌てて右手を引っ込め、代わりに左手を差し出す。
左手薬指に嵌められた“恋人”の証。
「…和も…手、出して?」
「いいよ、俺は…」
余程照れ臭いのか、なかなか左手を出さない兄ちゃんをソファの上に押し倒し、左手首を掴んだ。
「俺がして上げたいの…ね?」
真っ赤に染まった兄ちゃんの顔を見下ろし、掴んだ左手首を引き寄せた。
薬指の付け根にキスを落とし、揃いのリングを落とした。
「どうして俺が欲しかった物がわかったの?」
俺は“指輪が欲しい”なんて、一言も言ないのに…
「それはアレだよ…」
身体を起こしながら、困ったように頭を掻く兄ちゃん。
「見てただろ? ショーケースに並んでるの…じっとさ…」
「えっ? アレ見られてたの?」
まさか兄ちゃんに見られてるなんて、思いもしなかった…。