第2章 和…
キッチンの方から、潤と“母さん”の楽しそうな声が聞こえた。
そんな些細なことに、俺はそこに自分の居場所がないことを再確認してしまう。
「羨ましいかい?」
“親父さん”が人の良さそうな顔で言った。
「…いえ、別に…」
図星を差されて、俺は口籠もってしまう。
「君は…お母さんに愛されてないんじゃないか、って思ってるかい?」
「…そんなことは…」
思ってるよ。
思ってるけど…言えないよ、そんなこと…
「思ってない、わけないよな? 30年だもんな、そう思ったって仕方ないよね?」
「いや、だから俺は…」
「下駄箱の上の写真、気付いた?」
俺達を結び付けた、たった1枚の写真。
「僕はね、お母さんと結婚を決めた時、あの写真を捨ててくれと頼んだんだ。…君達のお父さんのことは勿論、過去は全部捨てて欲しかったからね?」
“親父さん”は残っていた缶ビールを一気に飲み干した。
「でもね、捨てられなかったんだよ…お父さんのことはともかくとして、忘れられなかったんだよね…君のことは…」
そう言って“親父さん”は寂しそうに笑った。
そして、
「ちゃんと愛されてるよ、君も。ただ、君がそうであるように、お母さんもどうしていいのか分からないんじゃないかな?」
“親父さん”が俺の肩をポンと叩いた。
その時キッチンの方から、潤の俺を呼ぶ声がした。