第2章 和…
「和也の席はここよ」
“母さん”が指差したのは、潤の隣。
「あ、ありがとう…ございます」
他人行儀に答える俺に、“母さん”が一瞬寂しそうな顔を向けた。
だって仕方ないじゃないか…。
俺は写真でしか“母さん”を知らないんだから。
「母さん、今日の晩御飯何?」
暗くなってしまった空気を振り払うように、潤の明るい声が響く。
「えっ、あ、あぁ…今日はね、ハンバーグにしたわ」
「やった! 兄ちゃん、母さんの作るハンバーグ、超美味いんだぜ」
「そ、そうなんだ? 楽しみだな」
そう言うと、“母さん”が照れくさそうに笑った。
「やだ、そんなに褒められると、緊張しちゃうじゃないの」
俺だけじゃないんだ、緊張してんのは…
そうだよな、この人だって約30年振りに息子と対面するわけだから、緊張しないわけないよな。
「俺、ハンバーグ大好物なんです」
「そうなのね。いっぱい作ったから、沢山食べて?」
“母さん”はテーブルに次々と料理を並べて行った。
勿論、ハンバーグも…
「和也君、いっぱいどうだ?」
“親父さん”が俺に向かって缶ビールを差し出す。
「親父さん俺には聞いてくんないの?」
潤が不満ありげに頬を膨らした。
「お前は車だろ?」
「チェッ、つまんねーの…」
心底つまらなさそうな潤の声に、笑いが起きた。