第11章 決断…
目の前にある物が何を意味しているのか…
いつもどんな時でも冷静沈着が売りの筈の俺の頭が、珍しく混乱していて…、意味が分からなかった。
「えっと…、あの…、これは…」
小さなポチ袋の中には、皺くちゃだけど、綺麗に折り畳んだ千円札が入っていて…
それは俺が節目を向迎える頃になると一枚から二枚、二枚から三枚へと増えて行き…、俺が丁度施設を退所する歳まで続いていた。
「いつか和也に会うことがあったら、渡そうと思っててね…。本当は潤みたいに出来たら良かったんだけど、今のお父さんと一緒になるまでは、私も必死だったから…」
女手一つで子供を育てることがどれ程大変なのかは、正直俺には分からない。
でも、生きることの辛さや苦労は、俺にも少しは分かる。
俺もそうだったから…
親戚の家をたらい回しにされ、挙句施設にまで入れられて…、食いたいモンもろくに食えなくて、欲しいモンも手には入らなくて…、それでも生きて行かなきゃいけないのが、子供心に辛かった。
社会に出てからだってそうだ。
頼れる身内も無くて、一人で生きて行くことに嫌気がさしたことだって、一度や二度じゃない。
だからきっと母さんも…
なのに俺は母さんの愛情を疑ってばかりいた。
俺よりも、潤の方が大事なんだ、って…