第11章 決断…
「ねぇ、兄ちゃん…?」
「ん…?」
湯船に腰まで浸かりながら、シャンプーで俺の髪を泡立てる潤が、溜息と同時に吐き出す。
「母さん、俺のこと軽蔑…したかな…?」
「何で?」
「だって…、母さんの口癖だったからさ…、“早く孫の顔見せなさい”って…」
それは、親ならば当然の…子供に対する期待なのかもしれない。
特に、母さんは潤に対して異常…とまではいかないまでも、けっこうな愛情を持っているのは事実で…
勿論、俺にだって愛情を持って接してくれてるんだろうけど、その差は…歴然。
母さんが潤の子供を…って願う気持ちは分からないでもない。
でも俺達は、その“期待”には答えられそうもない。
いや、方法が無いわけじゃない。
ただ、それだって簡単な話しではないだろうし…
「母さん…泣いてたもんね…。俺ね、母さんのあんな顔…、初めて見たかも…」
「そっか…」
「やっぱり隠し通すべきだったんかな…」
自分で言い出したことなのに、何度も後悔を繰り返す潤に、俺の苛立ちが募る。
俺はシャンプー途中の髪をシャワーで流すと、滴る水分を飛び散らせるように頭をブルンと振った。
「いい加減にしろって…。後悔するくらいなら、最初っからこんな提案しなきゃ良かったんじゃねぇのか?」
潤の…心做しか上気した顔が…、一瞬にして凍りついた。