第9章 家族旅行…
ま…、無理もないか…
「だってもう残ってないって…。俺が持ってた、あの一枚しかないって…」
うん…、俺も実際そう思っていた。
なのにどうして…?
「私もそう思ってたわよ? あんたは達のお父さんと別れた時、全部捨てて来たと思ってたから…。でも不思議ね…、その写真だけは、どうしても捨てられなかったのね…」
母さんの頬を、一筋の涙が伝う。
普段は何があっても涙なんか見せない母さんだから、その涙の持つ意味がどれ程のものなのか分かる。
そして、それ程愛していた筈の我が子を、一人残して家を出なきゃいけなかったことが、どれ程辛いことだったのか…
思いがけない母さんの涙に、親父さんが首にかけていたタオルを黙って差し出した。
「やあね、しんみりさせちゃったわね…? さ、飲みましょ?」
ほら、とばかりに母さんが兄ちゃんに向かってビール瓶を差し出した。
でも兄ちゃんは中々グラスを手に取ろうとはせず…
「兄…ちゃん?」
俺が覗き込むと、目を真っ赤に腫らしていて…
「これ…、俺が貰っちゃっていいの…かなあ…」
産まれたばかりの兄ちゃんを抱いて、幸せそのものの姿で写真に納まる母さんを、じっと見つめていた。
その姿に、なんだか俺まて胸に込み上げる物を感じてしまう。