第9章 家族旅行…
「たまたまね、この間物置の整理をしてたのよ…。そしたらね、赤ん坊だった潤を抱えて飛び出した時のボストンバッグが、奥の方から出てきたのよ…」
今じゃ開かずの間と化してる、あの部屋にそんな物が…?
「てっきり処分したと思ってたんだけどね…。 良い思い出なんかないもの…。でも残してあったのね…」
感慨深気に瞼を伏せる母さん…
俺は赤ん坊だったから分からないけど、当時の母さんにとっては見るのも嫌なくらい、そのボストンバッグが忌まわしい物だったに違いない。
でもそれを捨てずに仕舞ってあったのは、そこに幼くして別れざるを得なかった、兄ちゃんとの記憶があったから…なんだろうな…
「中を見ても…?」
兄ちゃんが母子手帳の表紙に手をかけると、母さんはそれに黙って頷いた。
「ねぇ、俺にも見せて?」
「お、おう…」
覗き込んだ俺の前で、一枚、また一枚と、兄ちゃんがページを捲って行く。
そこには、母さんが兄ちゃんを腹に宿した時からの記録が、それはそれは事細かに記されていて…
たまに走り書きのようなメモまで書かれている。
それを見ただけで、母さんがどれだけ幸せだったのか、伺い知ることが出来る。