第9章 家族旅行…
「かんぱ〜い!」
ビールで満たされた四つのグラスを合わせ、キンキンに冷えたビールを泡ごと一気に喉に流し込む。
「ぷは〜、美味いねぇ♪」
風呂上がりのコーヒー牛乳もいいけど、やっぱり冷えたビールは最高だよ。
「さて、料理はどうかな?」
箸を手に、まるで計算され尽くしたかのように綺麗に盛られた舟盛りに手を伸ばす。
温泉旅館のもう一つの醍醐味と言ったら、やっぱり海の幸をふんだんに使った海鮮料理だからね♪
本当はここに穴子があれば最高なんだけど、まあ仕方ない。
俺はマグロを一つまみすると、わさび醤油に軽く浸してから、一口で頬張った。
「美味い! 俺、こんな美味いマグロ初めてかも…」
「あら、大袈裟ね(笑)」
「本当だってば。兄ちゃんも…」
…って、兄ちゃん刺身駄目だったんだ。
「兄ちゃん、俺の分の茶碗蒸し食べていいからね? あ、あと焼き魚なら大丈夫だよね?」
「いいよ、気ぃ使うなって。俺は適当にやるから」
分かってるよ…
分かってるけどさ、やっぱり兄ちゃんにも楽しんで貰いたいんだもん。
それに俺、別に気を使ってるつもりはないし…
だって俺は、兄ちゃんの弟であることは紛れもない事実なんだけど、同時に恋人でもあるんだから、恋人のことを気遣うのは当たり前なんだよ。