第9章 家族旅行…
「俺、先上がるわ…」
一頻り親父さんも込みの“裸の付き合い”を楽しんで、いよいよのぼせるって寸前で、兄ちゃんが湯面を波立たせて風呂から上がる。
「あ、俺も」
当然、俺も兄ちゃんの後を追って脱衣所に出ると、兄ちゃんは既に浴衣を着込んでいて…
チラッと俺を見てから、左手をスっと差し出してきた。
手を繋いでくれるもんだとばかり思った俺は、迷うことなく兄ちゃんの手に自分の右手を重ねた。
「は?」
「え?」
「いや、俺のパンツ…」
当たり前…だけど、呆れ顔に呆れ声の兄ちゃんに、俺の顔が熱くなる。
「あ、あは…ははは、パンツ…ね…。すぐ出すからちょっと待ってて…」
「おう…。つか、お前…勘違いしてんじゃねぇよ(笑)」
慌てて脱衣カゴを漁る俺の横で、兄ちゃんが珍しく声を上げて笑う。
そりゃさ、ちょっと考えれば分かることだけど、そこまで笑う?
「もぉ…、兄ちゃん笑い過ぎ…」
「ごめんごめん(笑) つか、やっぱお前可愛いわ」
「そ、そんなお世辞言ったって誤魔化されないんだからね?」
更に唇を尖らせた俺の耳元に、兄ちゃんが口を寄せ、俺の(多分…だけど)赤くなった耳にフッと息を吹きかけた。
擦り硝子の向こうには、親父さんがいるのに…
「に、兄ちゃん…」
「馬鹿、期待してんじゃねぇよ(笑)」
分かってるよ。
だって今は…、この二日間だけは、俺達は”恋人”じゃなく、”兄弟”なんだから…