第9章 家族旅行…
キスをしてくれなかった兄ちゃんへの不満を打ち消すように、展望大浴場から見える景色は、部屋から見る景色とはまた違った表情で…
「うわぁ、兄ちゃん見てみて! 凄いよ、絶景だよ」
すっかりテンションが上がった俺は、貸し切り状態なのを良いことに、湯船に寝そべって足をバタバタさせたり…、子供みたいにはしゃいだ。
兄ちゃんはそんな俺を咎めるでもなく、湯船の中で俺の腰に腕を回すと、そっと顔を寄せ…
チャプン…、と湯面が揺れた瞬間、俺の唇に兄ちゃんの唇が重なった。
軽く触れるだけのキス…
なのにそれがとても嬉しくて、でもそれだけじゃ物足りなくて…
静かに離れて行こうとする兄ちゃん…和の唇を追いかけようとした、その時…
「おっ、先客がいると思ったら、なんだ君達か…」
ガラッと音を立てて開いた戸の向こうにいたのは、ポッコリお腹をタオルで隠した親父さんで…
咄嗟に兄ちゃんとの距離を空けたけど…、見られてなかった…よね?
ああ、もおっ!
心臓バクバクだよ…
「いや〜、しかしここからの眺めが最高だとは聞いていたが…、これはまさに絶景だな」
頭にタオルを乗せ、満足気に顔を綻ばせる親父さん。
でも俺の視線は、親父さんのある一点に集中していて…
何気に兄ちゃんの方を見ると、兄ちゃんも俺と同じ所を見ていて…
俺達はお互いに顔を見合わせると、何とも言えない表情を窓の外の景色に向けた。