第9章 家族旅行…
仲居さんに案内されて足を踏み入れた建物の中は、外観を裏切らないリッチな雰囲気で…
「ほぇ~、凄いじゃん。ねぇ、高かったんじゃないの?」
俺は思わず隣りにいた親父さんを、肘で小突いた。
「それほどでもないが、”それなりには”な…」
だよねぇ…
リゾート開発に携わる俺だから、ちょっと見れば大体の相場は見当がつく。
親父さん、兄ちゃんと母さんのために相当奮発したんだろうね。
ま、それだけ二人のことを大切に思ってくれてる、ってことなのかな。
「ね、ね、早く部屋行こ? 俺、温泉入りたいし。ね、兄ちゃん?」
「う、う、うん…」
あ…れ…?
兄ちゃん、嬉しくないい…?
「どうかした? さっきから元気ないよ?」
畳敷きの小上がりに腰を下ろしたまま、落ち着かない様子で周りをキョロキョロ見回す兄ちゃんの隣りに座って、顔を覗き込んだ。
「いや…さ…、初めてだからさ、こういうトコ来たの…。ほら、俺、旅行とかしたことないし…」
そっか、兄ちゃんはずっと施設で育ったから、俺達が普通に経験することも、出来ずに…
「一泊だけだけど、思い出作ろうね?」
本当は一泊なんかじゃとても足りないけどさ、それでも家族の思い出が一つでも出来たら…
「そう…だな」
「うん!」
ってことで、まずは温泉だ♪