第8章 秘密…
その日から俺達は殆ど…ってか、全く口をきかないまま時は過ぎ…
ふと気付いたら、俺の35回目の誕生日の朝を迎えていた。
とは言っても、ただ“誕生日”ってだけで、感覚的には何も変わりゃしない。
いつもと何一つ変わらない、普通の朝だ。
ただ一つ予定外だったのは、その日が丁度日曜日だった、ってことくらいかな…。
日曜日ってことは、潤の仕事休みだし、当然だけど潤が一日家にいることになる。
嫌でも顔を合わせることになる。
うーん…、何とも気まずい。
でもそうも言ってられない。
俺だって腹が減れば飯だって食うし、トイレにだって行かなきゃだし…
はあ…
めでたい筈の誕生日の朝が、溜息で始まるって、どんな地獄なんだよ…
はあ…
とりあえず朝飯でも食うか…
俺は二度目の溜息を落とすと、ノロノロとベッドを這い出て、寝癖だらけの髪をクシャッとかき混ぜ、自室のドアを開けた。
すると、まるでタイミングを計ったみたいにトーストの香ばしい匂いが漂ってきて…
これまた絶妙なタイミングで俺の腹の虫が盛大に泣き出した。
「あっ…、兄ちゃんも…食べる?」
「あ…うん…」
「じゃあちょっと待ってて? すぐ準備するから…。あ、コーヒーでいいよね?」
まるで何も無かったかのような、普通の会話…
でも満更居心地が悪いわけでもない。
寧ろ、久しぶりの潤との会話に、ホッとしてる。
「はい、お待たせ。食べよ? あ、それとも部屋で食べる?」
一瞬見せる寂しげな顔…
「いや、ここでいい」
でも今日くらいは、笑ってて欲しい。