第7章 バングル…
直径僅か2ミリにも満たない小さな文字と格闘すること30分…
漸く裏側の刻印が打ち終わった。
「ふぅ…、肩凝った…」
俺はグルンと首を一捻りすると、今度は大きく左右に振った。
「ふふ、案外疲れるでしょ?」
「えっ…いえ…まあ…」
「でもね、慣れるとそうでもないから」
だろうね…
でも俺は…多分一生慣れることはないだろうな…
「さ、もうひと頑張りだよ? あ、それともちょっと休憩する?」
出来ればそうしたい所だけど、ふと隣を見ると、真剣な顔をして作業に没頭する兄ちゃんの横顔があって…
「いえ、大丈夫です。あの、次はどうすれば…」
「んと、後はね、表の部分を彫って行くのね? で、本当なら“タガネ”って道具を使うんだけど、今回は初めてだから、これを使おうかな」
そう言って智さんが取り出したのは、裏側の刻印をしたのと同じような道具で…
でもそれは数字とか文字の類いではなくて、流線状の形を型どった物で、俺はそれを受け取ると、シルバーの上に乗せてから、ハンマーで叩いた。
「その調子。さっきよりも、うんと上手に出来てるよ」
「そ、そう…ですか?」
「うん、大丈夫。頑張って」
なんだろ…
やっぱりこの人の言葉って、安心する…って言うか、ホッとするって言うか…
母さんみたいな感じ…って言ったら、怒るだろうか?
それに翔さんだって…
黙ってコーヒーを珈琲を淹れてくれたり…
兄ちゃんの周りには、温かい人達ばかりだ…