第7章 バングル…
味噌汁の匂いと、トーストの匂い、そして本日二杯目のコーヒーの香りとが混じり合った、奇妙な食卓を囲んでの朝食。
普段は兄ちゃんと二人だけ、ってこが多いから、こんな団欒もたまにはいいかな、なんて思える。
翔さんが俺を見ては、肩を揺らして笑うのは…ちょっと気になるけど…
「あ、でさ、俺らどうすればいいの? 俺ら何もわかんないぜ?」
味噌汁にご飯をぶっ込みながら、兄ちゃんが箸をペロリと舐める。
もぉ、お行儀悪いんだから…
「それなら大丈夫、準備はしておいたから。二人はそこに細工してくだけだから。んでね…」
智さんが手に付いたパンの粉を払って、コーヒーを一口啜ると、徐に席を立ち、作業台の上にスケッチブックを広げた。
そこには“緻密”って言葉がしっくり来るような、細かく計算されたデザイン画が並んでいて…
ポワンとした見た目に、若干の不安を感じた自分を
少しだけ恥た。
この人、本物だ…ってね。
「こっちが和用で、コレが弟くん用にどうかな、と思ってさ。どうかな?」
智さんが差したのは、細かな細工こそ同じだけど、太さの違う二種類のデザイン画で、俺も、勿論兄ちゃんも、そのデザインの素晴らしさに思わず見入った。
でも…
「こんなん俺らに出来んの?」
はは…、俺も実は思った。
「俺はともかく、潤の不器用さは天下一品だぞ?」
えっ、そこ?
そりゃ、兄ちゃんと違って俺不器用だし…
それは認める。
認めるけどさ…
ちょっと悔しいかも…
俺、こう見えてけっこう負けず嫌いだからさ。