第7章 バングル…
何とも気不味い空気が流れ、マグカップが空になった頃、二階で物音がして、聞こえてきた楽しげな話し声。
兄ちゃんと智さんが起きてきたんだ。
その声は徐々に近付いて来て、階段を降りきった二人は、俺たちを見るなり、
「あ〜あ、腰痛いなぁ〜」
「あら、お宅も? 実は俺もなんだよね〜」
なんて、冗談を言いながら、大袈裟に腰を摩ってみせた。
つか、それ冗談になんないけど…もぉ…
せっかく冷めた顔の熱がぶり返して来るのを感じながら、俺は頬を目一杯膨らませて、兄ちゃんを睨みつけた。
「あー、腰痛いとこ悪ぃんだけどさ、俺腹減ったんだよね…。飯作ってくんない?」
すっかり険悪ムード(俺が一方的に、だけど…)になった空気を裂くように、翔さんがわざとらしく腹を叩いた。
「じゃ、僕何か作るね? あ、弟くんお料理得意なんでしょ? お手伝いしてくれる?」
智さんの柔らかい笑顔が俺に向けられる。
「ああ…はい」
兄ちゃんと翔さんをその場に残し、俺は智さんに腕を引かれるようにしてキッチンへ入った。
智さんが手際良く水を張った鍋をコンロにかけて、今度は冷蔵庫を開けた。
「翔くんはご飯派なのね? でも僕は、朝はパンがいいの。あ、和もご飯派だよね? 潤くんは?」
「俺も…どちらかと言えば、朝はパンかな…」
不思議な人だな、智さんて…
笑顔もそうだけど、おっとりとした口調と、少し抑え目の声のトーンが落ち着く。