第2章 始まり
「わかった。優美には魔法の世界へと生まれ変わってもらう。行く前に伝えておくことがある。前の世界での出来事は前世のこととして覚えていることになる。それからこれが一番重要なことなんだが...」
黒猫さんは、とても言いづらそうに口ごもっていたが、しばらくすると、意を決した顔をした。
「体のことだが、どうしても健康体にしてやれなかった。前よりは良いと思うが、少しマシになったくらいだ。それでも優美は、行きたいと思うか?」
黒猫さんはとても悲しそうな顔を浮かべながら、伝えてくれた。その表情でこのことが黒猫さんにとってとても不本意なことがわかる。
だからこそ私は
『..行きます。次こそはたくさんの人とお話して愛して愛されたい...。それに黒猫さんのこと信じてます。黒猫さんが私のことを思ってくれてるのが、伝わるから。次こそは頑張りたい...です』
最後は少し照れながら、しかし黒猫さんを真っ直ぐに見つめてそう答えると、悲しそうな顔をしていた黒猫さんは、恥ずかしそうにハニカミながら笑ってくれた。
「優美の気持ち受け取った。ではそろそろ時間だ。あの扉を見てみろ」
黒猫さんの指を指したほうを見てみると、そこにはいつの間にか扉があった。その扉を確認してから、再度黒猫さんを見た。
「優美、わたしはお前の味方だ。さぁ、あの扉を開けて行くんだ。時間がなくなる」
黒猫さんは私の背中を軽く押しながら、扉の前に連れてきてくれた。
怖いと言ったら嘘になる。
また愛されなかったら...でもごちゃごちゃ考えても仕方ない。
私は扉を開けようと手を伸ばしたが、やめた。
「どうした?怖くなったか?」
心配そうにこちらを見つめる黒猫さんに、体ごと振り向いた。そして
『黒猫さんは嫌だから。お名前聞いてもいいかな?』
小首を傾げながら黒猫さんに聞くと、驚いたようにこちらを見ていた黒猫さんは一瞬泣きそうになりながらも、笑って答えてくれた。
「わたしはエイルという」
『じゃあ、エイルさんありがとう。エイルさんとお話出来て良かった』
私は扉に近づいて振り向き、黒猫さんにそう告げると思いきって扉を開きくぐった。
「わたしのほうのセリフだ、優美」
エイルは笑みを浮かべながら見送った。