第88章 ボーバトンとダームストラング
大きな館ほどの馬車が、12頭の馬に曳かれてこちらに飛んで来ている。翼のある馬は金銀に輝くパロミノで、それぞれが象ほども大きいものだ。馬車が高度を下げ、猛烈なスピードで着陸体勢に入ったので、前3列の生徒が後ろに退く。
すると、ドーンという衝撃音とともにディナー用の大皿より大きな天馬の蹄が、地を蹴った。その直後、馬車も着陸した。巨大な車輪がバウンドし、金色の天馬は太い首をもたげ、火のように赤く燃える大きな目を動かしている。
『とっても綺麗だわ!頼んだら、触らせてもらえるかしら?』
「そうね。お願いしたらいいんじゃないかしら」
馬車から淡い水色のローブを着た少年が飛び降り、前屈みになって馬車の底をゴソゴソいじっていたが、すぐに金色の踏み台を引っ張り出した。少年はうやうやしく飛び退く。すると、馬車の中から子供が遊ぶソリほどもある靴が現れた。それから、姿を現した女性は、見たこともないような大きさだった。
「大きいわね」
「ハグリッドと〜同じくらいかな〜」
「馬車と天馬の大きさも、納得ね」
クレア、エイミー、ミアに私は頷く。アルバスが拍手する。それにつられて、私たちもいっせいに拍手した。その女性をもっとよく見たくて、背伸びしている生徒がたくさんいる。
女性は表情を和らげ、優雅に微笑む。そして、アルバスに近づき、まばゆく輝く片手を差し出した。アルバスも背は高かったが、手にキスするのにほとんど身体を曲げる必要はなかった。
「これはこれは、マダム・マクシーム。ようこそ、ホグワーツへ」
「ダンブリー・ドール。おかわり、ありませんか?」
アルバスが挨拶をし、マダム・マクシームが深みのある声で答える。
「お陰さまで、上々じゃ」
「わたしの生徒です」
そう言ったマダム・マクシームは、巨大な手の片方を無造作に後ろに回して振った。マダム・マクシームの方にばかり気を取られていたが、十数人もの男女の学生に気が付く。みんな十七、八歳以上に見えた。馬車から現れると、マダム・マクシームの背後に立つ。
みんな震えていた。無理もない。着ているローブは薄物の絹のようで、マントを着ている人は一人もいなかった。何人かはスカーフを被ったり、ショールを巻いたりしている。顔はほんのわずかしか見えなかったが、私にはみんなが不安そうな表情でホグワーツを見つめているかのように見えた。