第2章 始まり
「思い出したみたいだな。あのときわたしは、トラブルに見舞われて、あそこで力尽きてしまったのだ。優美は、見ず知らずの私にとても優しくしてくれた。走れないから遅いけどといいながら、家から食べ物や飲み物を持ってきてくれた。それにどれだけ救われたか」
黒猫は懐かしそうに、その当時を思い出していた。あのときはもうだめかと思ったのだ。わたしのあのときの格好は、清潔感があるとはとても言えず汚かった。しかし優美はそんなわたしに手を差し伸ばし助けてくれたのだ。やっとあのときの恩が返せる。そう思いながら、目の前の女の子を見つめた。
優しくこちらを見つめる黒猫さんに照れてしまった。しかし、あれは当たり前のことであってそんな恩返しなどしてもらうのは申し訳ない気がする。そう思っていたのが顔に出ていたのか黒猫さんは言った。
「わたしがしたいのだ。優美は気にしなくてよい。さてここからが本題だ。これから優美には行くところを選んでほしい。行けるのは優美の生きていた世界での本やアニメなどの所謂、2次元だ。どこがよい?」
黒猫さんに言われて私は考えた。でも、入院していたから多くの本などを読んでいた私にとってはとても悩むところだった。しばらく考えていたが、黒猫さんは急かすこともせずに、待ってくれていた。そして、思い付いたのだ。あの、胸をドキドキわくわくさせる、魔法の世界のことを書いた本があったのを。言おうと顔をあげて、口を開こうとすると黒猫さんに手で制されてしまった。
「言わなくてもよい。魔法の世界だな?優美、そこで本当によいのだな?」
『はい。あの魔法の世界は、入院して寂しかった私の心を支えてくれたんです。あの世界に行きたいです』
私が笑顔を浮かべて答えると、黒猫さんはとても嬉しそうに笑ってくれた。