第87章 S・P・E・W
「'スピュー(ゲロ)'じゃないわ。S-P-E-W。つまり、Society for the Promotion of Elfish Welfare.'しもべ妖精福祉振興協会'よ」
「聞いたことないわね」
「私が始めたんだから、無理ないわ」
ミアが言うと、ハーマイオニーはこう言った。私は、ついに来てしまったかと内心で思っていた。ハーマイオニーは言葉を続ける。
「ベッドのシーツを替え、暖炉の火を起こし、教室を掃除し、料理をしてくれる魔法生物たちが、無給で奴隷働きしているのを知っているかしら?おかしいと思わない?」
困ったようにクレアとエイミーは顔を見合わせた。ミアはなんとも言えない表情だ。しかし、それを気にも止めず、ハーマイオニーは話し続ける。
「宣言文は、'魔法生物仲間の目に余る虐待を阻止し、その法的立場を変えるためのキャンペーン'よ。それで、私たちの短期的目標は、屋敷しもべ妖精の正当な報酬と労働条件を確保することよ。私たちの長期的目標は、杖の使用禁止に関する法律改正。しもべ妖精代表を一人、魔法生物規制管理部に参加させること。なぜなら、彼らの代表権が驚異的なほど無視されているから。それで、2シックルでバッジを買ってほしいのよ。その売上を資金に、ビラ撒きキャンペーンを展開するの。どうかしら?」
「私は、協力出来ないわ。ごめんなさい」
「どうして?」
ミアが答えると、ハーマイオニーが激しい口調で問い詰める。
「屋敷しもべ妖精がどう思っているのか知らないから。屋敷しもべ妖精の話も聞いてみたいの」
ハーマイオニーは何も言い返さない。その代わりに、期待を持った目で私を見る。
『ごめんなさい、ハーマイオニー。私も協力出来ないわ』
ガーンと衝撃を受けた様子のハーマイオニー。私だったら協力してくれると思っていたのかもしれない。
「どうして?」
『私の家にも、屋敷しもべ妖精がいるの。ディニーって言うんだけど。もしディニーが望むなら、お父さまもお母さまも喜んでそうしていると思うわ。でも、違うと思うの。だから、協力出来ない。でも、その活動を辞めさせたいとかは思ってないわ。本当にごめんなさい、ハーマイオニー』
ハーマイオニーはおそらく反論しようと口を開いたが、言葉にならなかったのか黙りこむ。クレアとエイミーも、私とミアと同じ意見だからと協力を断った。