第87章 S・P・E・W
シリウスの手紙が届いてからのハリーは、シリウスのことが心配で仕方ないが、気にしないようにと努めているようだった。ハリーは私に、傷痕が痛んだというのは思い過ごしだったからこちらに戻って来るのは無駄。こちらは何も問題ないから心配しないでという内容の手紙を送ったと教えてくれた。
「次の授業なんだったかしら?」
『闇の魔法に対する防衛術よ』
クレアは渋い顔をする。初回の授業が、クレアにとっては、刺激が強すぎたらしい。授業に行くと驚いたことに、ムーディ先生は、服従の呪文を生徒一人一人にかけて、呪文の力を示すことで、果たして生徒がその力に抵抗できるかどうかを試すと発表した。
「でも......でも、先生、それは違法だとおっしゃいました。先生はおっしゃいました...同類である人間にこれを使用することは...」
ハーマイオニーが、どうしようかと迷いながらも言ったが、ムーディ先生は杖を一振りして机を片づけ、教室の中央に広い空間を作る。
「ダンブルドアが、これがどういうものかを、体験的におまえたちに教えて欲しいというのだ」
ムーディ先生の魔法の目が、ぐるりと回ってハーマイオニーを見据え、瞬きもせず、無気味な眼差しでジッと見据えた。
「もっと厳しいやり方で学びたいというのであれば...誰かがおまえにこの呪文をかけ、完全に支配する。そのように学びたいのであれば...わしは一向にかまわん。授業を免除する。出て行くがよい」
ムーディ先生は、節くれ立った指で出口を差し示す。ハーマイオニーは赤くなり、出て行きたいと思っているわけではありません、というようなことを呟いた。
ムーディ先生は、生徒を一人一人呼び出して、服従の呪文をかけはじめた。呪いのせいで、次々と途方もないことをするクラスメートを、私はじっと見つめる。
「あんなことをしてしまうなんて...」
隣にいたクレアがポツリ呟く。ディーンは、国歌を歌いながら、片足跳びで教室を3周した。ラベンダーはリスの真似をして、ネビルは普通だったらとうてい出来ないような見事な体操を、立て続けにやってのけた。誰一人として呪いに抵抗できた者はいなかった。ムーディ先生が呪いを解いたとき、はじめて我に返るのだ。
「ポッター、次だ」
ムーディ先生が唸るように呼ぶ。ハリーは、教室の中央、ムーディ先生が机を片づけて作った空間に進み出た。