第86章 許されざる呪文
'ハリー すぐに北に向けて飛び立つつもりだ。 奇妙な噂が、ここにいる私の耳にも届いているが、君の傷痕のことは、その一連の出来事に連なる最新のニュースだ。 また痛むことがあれば、すぐにダンブルドアのところへ行きなさい...風の便りでは、ダンブルドアが、マッド・アイ・ムーディを隠遁生活から引っ張り出したとか。 このことは、他の者は誰も気づいていなくとも、なんらかの気配を、ダンブルドアが読み取っているということなのだ。 またすぐ連絡する。 ユウミとロンとハーマイオニーによろしく。 ハリー、くれぐれも用心するように。 シリウス'
ハリーは、目を上げて私達を見る。私達も、ハリーを見つめ返す。
「北に向けて飛び発つって?帰って来るってこと?」
呟いたハーマイオニー。
「ダンブルドアは、何の気配を読んでるんだ?」
ロンは、混乱しているようだ。
「ハリー...どうしたんだい?」
ハリーが、こぶしで自分の額を叩いているところだった。膝が揺れ、ヘドウィグがハリーの膝から離れる。
「シリウスに言うべきじゃなかった!」
「なにを言い出すんだ!」
激しい口調で言ったハリーに、ロンがびっくりした様子で言う。
「手紙のせいで、シリウスは帰らなくちゃならないって思ったんだ!」
そう言ったハリーが、今度はテーブルをこぶしで叩いたので、ヘドウィグはロンの椅子の背に止まり、怒ったようにホーと啼いた。
「戻って来るんだ。僕が危ないと思って!僕はなんでもないのに!それに、おまえにあげる物なんて、何もないんだ」
ねだるように嘴を鳴らしているヘドウィグに、ハリーはそれを遮るように言う。
「食べ物が欲しかったら、ふくろう小屋に行ってくれないかな」
ヘドウィグは、大いに傷ついた目つきでハリーを見て、開け放した窓のほうへと飛び去ったが、行きがけに、広げた翼でハリーの頭のあたりを叩くようにした。
「ハリー」
ハーマイオニーが宥めるような声で話し掛ける。
「僕、寝る。また明日」
しかし、ハリーは言葉少なにそれだけ言って、部屋に行ってしまった。ハリーが行ってしまった沈黙を破って私は言う。
『あー...私も部屋に戻るわ...』
「えぇ、おやすみ、ユウミ」
「おやすみ」
ロンとハーマイオニーと挨拶をかわして、私は部屋に戻った。