第85章 マッド・アイ・ムーディ
ケナガイタチはキーキーと脅えた声を出して、地下牢のほうにさっと逃げ出す。私はこのままだと、ケナガイタチが上下に揺すられて何度も床にぶつかっては跳ね上がりを繰り返されることを思い出した。そのため、さっと歩いてケナガイタチの前に立つ。
『大丈夫よ』
怯えていたケナガイタチに、私はそう言って抱き上げる。
「なんだ、そこをどけ」
ムーディ先生の怖い顔を、私は真っ直ぐ見つめた。
『先生、変身術を生徒に使ってはいけないはずです』
「敵が後ろを見せたときに襲うやつは気にくわん!鼻持ちならない、臆病で、下劣な行為だ!」
それでも私はどかなかった。ケナガイタチは震えたまま、私にしがみついている。
「ムーディ先生、どうしたのですか?」
そうムーディ先生に尋ねたのは、腕いっぱいに本を抱えて大理石の階段を降りて来るミネルバだ。
「やあ、マクゴナガル先生」
「マーレイ、それは?」
落ち着いた声で挨拶したムーディ先生を見て、ミネルバは私の腕の中にいるケナガイタチを見る。
『...生徒です』
「生徒!そんな!」
ミネルバの腕から本がこぼれ落ちた。ミネルバは、階段を駆け降りながら杖を取り出す。次の瞬間、私の腕の中にいたケナガイタチは、バシッと大きな音を立てて、ドラコに変わった。私はドラコに抱きつかれているようになる。ドラコは私からすぐに離れた。ドラコの顔は燃えるように紅潮している。
「ムーディ先生、本校では、懲罰に変身術を使うことは絶対ありません!ダンブルドア校長が、そうあなたにお話ししたはずですが?」
ミネルバが困り果てたように言う。
「そんな話をしたかもしれん、フム。しかし、わしの考えでは、一発厳しいショックで...」
ムーディ先生は、そんなことはどうでもよいというように顎を掻いた。
「ムーディ先生!本校では、居残り罰を与えるだけです!さもなければ、規則破りの生徒が属する寮の寮監に話をします」
「それでは、そうするとしよう」
ムーディ先生は、ドラコを嫌悪のまなざしで睨みつける。ドラコは、屈辱で薄青い目をまだ潤ませてはいたが、ムーディ先生を憎らしげに見上げ、父上に話してやると呟いた。
「フン、そうかね?いいか、わしはおまえの親父を昔から知っているぞ...親父に言っておけ。ムーディが息子から目を離さんぞ、とな...わしがそう言ったと伝えろ」