第83章 ホグワーツ特急に乗って
クレアは私が熱を出さないか心配で見ているのだろう。雨は、まるで頭から冷水をバケツで何杯も浴びせかけるように、激しく叩きつけるように降っている。
駅の外に、およそ百台の馬なしの馬車が待っていた。正確には馬なしではないが、今はいいだろう。ドアが閉まると、まもなくゴトンと大きく揺れて動き出した。馬なし馬車の長い行列が、雨水を撥ね飛ばしながら、ホグワーツ城を目指して進む。
「ユウミ、大丈夫なの?」
『寮に戻る前に一応、医務室に行くわ』
クレアの問いに、私は答える。羽の生えたイノシシの像が両脇に並ぶ校門を通り、大きくカーブした城への道を、馬車はゴトゴトと進んだ。風雨は時が経つにつれて嵐になってきて、馬車は危なっかしく左右に揺れている。
正面玄関の、がっしりした樫の扉へと上がる石段の前で、馬車が止まった。私達は、一言も喋らずに急ぎ足で石段を上がり、城の中へ向かう。やっと顔を上げたのは、無事に玄関の中に入ってからだった。
「ひどい雨ね」
「本当ね。みんなびしょ濡れよ」
「うわーッ!」
誰かの叫びにそちらを見ると、そこにはロンが。そのとき、水風船が落ちて来るのが見えた。まわりの生徒たちは、悲鳴をあげて水爆弾戦線から離れようと押し合いへし合いしている。見上げると、20フィート上のほうにプカプカ浮かんで、次の標的に狙いを定めているピーブズがいた。
「ピーブズ!ピーブズ、ここに降りて来なさい。いますぐに!」
誰かが怒鳴った。ミネルバだ。ミネルバは、大広間から飛び出して来て、濡れた床にズルッと足を取られ、転ぶまいとしてハーマイオニーの首にしがみついた。
「おっと...失礼、Ms.グレンジャー」
「大丈夫です、先生」
ハーマイオニーが喘いで言いながら、喉のあたりをさすっている。
「ピーブズ、降りて来なさい。さあ!」
ミネルバは、曲がった三角帽子を直しながら、四角いメガネの奥から上のほうに睨みをきかせて怒鳴った。
「なーんにもしてないよ!」
ピーブズはケタケタ笑いながら、5年生の女子生徒数人めがけて水爆弾を放り投げる。投げ付けられた女の子たちはキャーキャー言いながら大広間に飛び込んだ。
「どうせ、ビショ濡れなんだろう?濡れネズミのチビネズミ!ウィィィィィィィィィィィィ!」
そして、今度は到着したばかりの2年生のグループに水爆弾の狙いを定めた。