第82章 闇の印
『おはようございます、アーサーさん』
「おはよう、ユウミ。すぐに出るからね」
アーサーさんは、魔法でテントをたたみ、できるだけ急いでキャンプ場を離れることにしたみたいだ。途中で小屋の戸口に居るロバーツさんの傍を通った。
「メリー・クリスマス」
ロバーツさんは奇妙にボーッとして、みんなに手を振り、ぼんやりと挨拶をしている。
「大丈夫だよ。記憶修正されると、しばらくのあいだはちょっとボケることがある...それに、今度はずいぶん大変なことを忘れてもらわなきゃならなかったしね」
荒地に向かってみんなが歩いているときに、アーサーさんがそっと言った。移動キーが置かれている場所に近づくと、切羽詰まったような声がガヤガヤと聞こえてくる。その場に着くと、大勢の魔法使いたちが移動キーの番人バージルを取り囲んで、とにかく早くキャンプ場を離れたいと大騒ぎしていたのだとわかった。
アーサーさんは、バージルと手早く話をつけ、みんなで列に並んだ。そして、古タイヤに触れることで、太陽が完全に昇りきる前にストーツヘッド・ヒルに戻ることができた。夜明けの薄明かりの中、みんなでオッタリー・セント・キャッチポールを通り、隠れ穴へと向かう。
疲れ果て、誰もほとんど口を利かずにいた。道を曲がり、隠れ穴が見えてきたとき、朝露に濡れた通り道の向こうから、叫び声が響いた。
「来たわ!ああ!よかった、本当によかった!」
家の前でずっと待っていたのだろう。モリーさんが、真っ青な顔を引きつらせ、手に丸めた日刊予言者新聞をしっかり握り締めて、スリッパのまま走って来た。そして、その隣には私のお父さまとお母さまがいる。
「「ユウミ!」」
走りよってきた二人に、きつく抱き締められた。
「心配したのよ、ユウミ。怪我はない?大丈夫なの?」
体を離すと、お母さまはそう言いながら私の体を心配そうにチェックする。
『大丈夫よ、お母さま』
「体調が悪くなったりしていないかい?」
『お父さま、平気だったわ』
私は微笑む。
「無事だったのね。みんな、生きててくれた...ああ、おまえたち...」
隣からの声にそちらをみると、モリーさんはフレッドとジョージの二人を、思いっきりきつく抱き締めた。あまりの勢いに、二人は頭をぶつける。
「痛ッ!母さん...絞め殺すつもり...」