第82章 闇の印
「あっちで、何があったんだ?」
「誰が、あれを造り出した?」
「アーサー...もしや...あの人?」
アーサーさんが、こらえかねて言う。
「いいや、あの人じゃない。誰なのかわからない。どうも姿くらまししたようだ。さあ、道を空けてくれないか。ベッドで横になりたいんでね」
アーサーさんは、ハリー、ロン、ハーマイオニーと私を連れて群集を掻き分け、キャンプ場へと戻って行く。もう、すべてが静かになっていた。仮面の魔法使いたちの気配もない。ただ、壊されたテントがいくつか、まだくすぶっていた。
「父さん、何が起こってるんだい?フレッド、ジョージ、ジニーは無事戻ってるけど、あとは...」
男性用テントから顔を出したチャーリーが暗がりの中から話し掛けた。
「私と一緒だ」
アーサーさんが屈んでテントに潜り込みながら言った。私達もそれに続く。ビルは、腕にシーツを巻き付けて、小さなテーブルの前に座っている。その腕からかなり出血していた。チャーリーのシャツは大きく裂け、パーシーは鼻血を流していた。フレッド、ジョージ、ジニーは怪我が無いようだったが、ショック状態のようだ。
『アーサーさん、ごめんなさい。少し気分が優れなくて。先に休んでもいいですか?』
「あぁ、もちろんだよ。大丈夫かい?」
気遣わしげな表情で尋ねるアーサーさん。
『大丈夫です』
「ついていこうか?一人で大丈夫かい?」
微笑んで答えた私に、チャーリーが心配そうに問いかけた。
『大丈夫よ、チャーリー。ありがとう』
私はみんなに一声かけて、女性用テントに戻ってきてコートを脱いでベッドに横たわる。おそらくあちらではいろいろなことが話されているだろう。闇の印は、例のあの人とその家来が誰かを殺すときに、決まって空に打ち上げたのだということ。例のあの人の支持者である死喰い人の残党が、印を見た途端に怖がって姿くらまししたこと。死喰い人という証拠はないが、その可能性が高いこと。
マルフォイ一家は例のあの人の腹心だったこと。今夜の人達が本当の死喰い人だったら、例のあの人が力を失ったとき、アズカバン行きを逃れるために必死で工作したはずの人達であること。あの印の造り方を知っているのは、死喰い人だけだということを。
「みんな、起きなさい!」
私はいつの間にか眠ってしまったらしい。アーサーさんの声に起こされた。