第80章 クィディッチ・ワールド・カップ
...そして、ディミトロフへと。アイルランドのビーター、クィグリーが、目の前を通るブラッジャーを大きく打ち込むときに、クラムめがけて力のかぎり叩きつけた。クラムは避けそこなって、ブラッジャーが、強く顔に当たる。
『あぁっ!』
私は思わず声をあげた。競技場が呻き声一色になる。クラムの鼻が折れたかのように見えた...そこら中に血が飛び散る。しかし、モスタファー審判は、ホイッスルを鳴らさなかった。他のことに気を取られていたのだ。それも当然のことだろう。ヴィーラの一人が投げた火の玉で、審判の箒の尾が火事になっていたのだ。
「タイムにしろ!ああ、早くしてくれ。あんなんじゃ、プレーできないよ。見て...」
ロンは、アイルランドを応援しているが、クラムはこの競技場で最高の、ワクワクさせてくれる選手だからそう言ったのだろう。おそらく、ハリーもだ。
「リンチを見て!」
そのハリーが叫ぶ。さっと私も運よく見つけられると、アイルランドのシーカーが急降下していた。
「スニッチを見つけたんだよ!見つけたんだ!行くよ!」
ハリーが確信を持った様子で言った。観客の半分が、事態に気づいたようだ。アイルランドのサポーターが緑色の波のように立ち上がり、チームのシーカーに大声援を送る。
しかし、クラムがピッタリ後ろについていた。クラムのあとに、点々と血が尾を引いている。クラムは見えているのだろうか。それでも、クラムはいまやリンチと並んだ。2人がひとつになって再びグラウンドに突っ込んで行く。
「二人とも、ぶつかるわ!」
ハーマイオニーが金切り声をあげた。
「そんなことない!」
ロンが大声をあげ、それにハリーも続く。
「リンチがぶつかる!」
その通りだった。またもや、リンチが地面に激突し、怒れるヴィーラの群れがたちまちそこに押し寄せる。
「スニッチ、スニッチはどこだ?」
チャーリーが叫んだ。
「とった...クラムが捕った...試合終了だ!」
叫び返したハリー。赤いローブを血に染め、血糊を輝かせながら、クラムがゆっくりと舞い上がる。高々と突き上げたこぶしの、その手の中に、金色の輝きが見えた。大観衆の頭上にスコアボードが点滅する。
'ブルガリア:160...アイルランド:170'
何が起こったのか、観衆には飲み込めていないようだ。