第80章 クィディッチ・ワールド・カップ
しばらくして、ゆっくりと、ジャンボ・ジェット機が速度を上げていくように、アイルランドのサポーターのざわめきが段々と大きくなり、歓喜の叫びとなって爆発した。
「アイルランドの勝ち!クラムが、スニッチを捕りました...しかし、勝者はアイルランドです...なんたること。誰がこれを予想したでしょう!」
バグマンが叫ぶ。アイルランド勢と同じく、バグマンもこの突然の試合終了に度胆を抜かれていたようだ。
「クラムは、いったいなんのためにスニッチを捕ったんだ?アイルランドが百六〇点もリードしてるときに試合を終わらせるなんて、バカな!」
ロンは飛び跳ね、頭の上で手を叩きながら大声で叫んだ。
「絶対に点差を縮められないってわかってたんだよ。アイルランドのチェイサーが上手すぎたんだ...クラムは、自分のやり方で終わらせたかったんだ。きっと...」
大喝采しながら、ハリーが騒音に負けないように叫び返した。
「あの人、とっても勇敢だと思わない?」
そう言ったハーマイオニーが、クラムの着地するところを見ようと身を乗り出す。魔法癒師の集団が、闘いもたけなわのレプラコーンとヴィーラを掻き別けて道を作り、クラムに近づこうとしていた。
「かなりの重傷みたいだ...」
私は、心配でクラムを見つめる。レプラコーンが、大喜びでフィールドを飛び廻っているので、下で何が起こっているのか、なかなか見えなかったが、やっとのことで魔法癒師に取り囲まれたクラムの姿を捉えた。前にも増してムッツリした表情で、治療しようとする魔法癒師団をはねつけている。
その周囲で、チームメイトがガックリした様子で首を振っていた。その少し向こうでは、アイルランドの選手たちが、マスコットの降らせる金貨のシャワーを浴びながら、狂喜して踊っている。
スタジアムいっぱいに国旗が打ち振られ、四方八方からアイルランド国歌が流れてきた。ヴィーラは、意気消沈して惨めそうだが、いまは縮んで、元の美しい姿に戻っている。
「まあ、我々は勇敢に戦った」
沈んだ声がした。振り返ると、声の主はブルガリア魔法省大臣だ。
「ちゃんと話せるんじゃないですか!それなのに、一日中私にパントマイムをやらせて!」
そう言ったファッジの声が怒っている。
「いやあ、ほんとに面白かったです」
ブルガリア魔法省大臣は肩をすくめた。