第80章 クィディッチ・ワールド・カップ
「さあ、ボルコフ、ボルチャノフは箒に乗ったほうが良いようです...よーし...乗りました...そして、トロイがクァッフルを手にしました...」
試合の様相は、これまでに見たことがないほどの凶暴なものになってきた。両チームのビーターが、ともに情け容赦なしの動きを取るようになったのだ。
ボルコフ、ボルチャノフは特に、棍棒をメチャメチャに振り回し、ブラッジャーに当たろうが選手に当たろうが見境いなしの状態になっている。ディミトロフが、クァッフルを持ったモランめがけて体当たりしたので、彼女は危うく箒から突き落とされそうになった。
「反則だ!」
アイルランドの応援団の緑色の波がうねるように次々と立ち上がり、いっせいに叫んだ。
「反則!ディミトロフが、モランに身体ごとぶつかりました...わざとぶつかるように飛びました...これは、またペナルティーを取らないといけません...よーし、ホイッスルです!」
魔法で拡声されたバグマンの声が響く。レプラコーンがまた空中に舞い上がり、今度は巨大な手の形になり、ヴィーラに向かって競技場いっぱいに下品なサインをしてみせた。これには、ヴィーラも自制心を失った。
グラウンドから襲撃をかけ、レプラコーンに向かって火の玉のようなものを投げつけはじめたのだ。ヴィーラは、いまや美しいとは言えない状態になっていた。それどころか、顔は伸びて、鋭くて獰猛な嘴をした鳥の頭になり、鱗に覆われた長い翼が肩から飛び出していた。
「ほら、おまえたち、あれをよく見ておきなさい。だから、外見だけにつられては駄目なんだ!」
下の観客席からの大喧騒にも負けない声で、アーサーさんが叫ぶ。魔法省の役人が、ヴィーラとレプラコーンを引き離すために、グラウンドに繰り出したが、手に負えなかった。それでも、上空での激戦に比べればグラウンドの戦いなど物の数ではない。クァッフルは弾丸のような速さで手から手へと渡っていた。
「レブスキー...ディミトロフ...モラン...トロイ...マレット...イワノバ...またモラン...モラン......モランが決めた!」
しかし、アイルランド・サポーターの歓声は、ヴィーラの叫びや魔法省役人の杖から出る爆発音、ブルガリア・サポーターの怒り狂う声でほとんど聞こえない。試合はすぐに再開した。今度はレブスキーがクアッフルを手にする。