第80章 クィディッチ・ワールド・カップ
「モスタファーが、ブルガリアのキーパーから反則を取りました。コビングです...過度な肘の使用です!そして...よーし、アイルランドがペナルティ・スロー!」
マレットが反則を受けたとき、怒れるスズメバチの大群のようにキラキラ輝いて空中に舞い上がっていたレプラコーンが、今度は素早く集まって空中文字を描く。'ハッ!ハッ!ハッ!'。
グラウンドの反対側に居たヴィーラが立ち上がり、怒りに髪の毛を打ち振り、再び踊りはじめた。ウィーズリー家の男性陣とハリーは、すぐに指で耳栓をする。私はそのとき、あるものを見てくすくす笑った。
「審判を見てよ!」
同じようにクスクス笑っているハーマイオニーが言う。ハッサン・モスタファー審判が、踊るヴィーラの真ん前に降りて、なんともおかしな仕草をしているのだ。腕の筋肉を強調させたり、夢中で口ヒゲを撫でつけたりしている。
「さーて、これは放ってはおけません」
そう言ったバグマンは、面白くてたまらないという声だった。
「誰か、審判をひっぱたいてくれ!」
魔法癒師の一人が、グラウンドの向こうから大急ぎで駆けつける。その魔法癒師は指でしっかり耳栓をしながら、モスタファーのむこう脛をこれでもかとばかりに蹴飛ばした。
モスタファーは、ハッと我に返ったようだ。審判はとても決まりの悪そうな顔で、ヴィーラを怒鳴りつけていた。ヴィーラは踊るのをやめ、反抗的な態度をとっている。
「さあ、私の目に狂いがなければ、モスタファーは、ブルガリア・チームのマスコットを本気で退場させようとしているようであります!」
バグマンの声が響く。
「さーて、こんなことは前代未聞...ああ、これは面倒なことになりそうです...」
そうなってしまった。ブルガリアのビーター、ボルコフとボルチャノフが、モスタファーの両脇に着地し、身振り手振りでレプラコーンのほうを指差し、激しく抗議しはじめたのだ。レプラコーンは、いまや上機嫌で'ヒー、ヒー、ヒーの文字になっていた。
モスタファーは、ブルガリアの抗議に取り合わず、人差し指を何度も空中に突き上げている。飛行態勢に戻るように言っているに違いない。2人が拒否すると、モスタファーはホイッスルを短く2度吹いた。
「アイルランドにペナルティー・スロー、2つ!」
バグマンが叫んだ。ブルガリアの応援団が怒って喚き出した。