第80章 クィディッチ・ワールド・カップ
半分は、ハーマイオニーの言う通りだった。...ビクトール・クラムは、最後の1秒で辛うじて箒を引き上げ、螺旋を描きながら飛び去ったのだ。ところがリンチは、ドスッという鈍い音をスタジアム中に響かせ、地面に衝突した。アイルランド側の席から大きな呻き声があがる。
「愚かな!クラムは、フェイントをかけたのに!」
アーサーさんが呻く。
「タイムです!エイダン・リンチの様子を見るため、専門の魔法癒師が駆けつけています!」
バグマンが、声を張りあげた。
「大丈夫だよ。衝突しただけだから!もちろん、それがクラムの狙いだけど...」
真っ青になってボックス席の手摺りから身を乗り出していたジニー。そのジニーにチャーリーが慰めるように言った。ビクトール・クラムは、ウロンスキー・フェイント...シーカー牽制のための危険技をしたらしい。ハリーが、万眼鏡を覗き込みながらボソッと言ったためわかった。
『大丈夫かしら?とっても痛そうだったわ』
大丈夫だとは思うが心配しつつリンチを見ると、リンチは魔法癒師に魔法薬を何杯も飲まされて、蘇生しつつあるように見えた。ビクトール・クラムの方は、リンチが蘇生するまでの時間を利用して、邪魔されることなくスニッチを探しているみたいだ。
「ユウミ、見て!立ったわよ!」
ハーマイオニーの声に見ると、リンチがやっと立ち上がった。緑色を纏ったサポーターたちがワッと沸き上がる。リンチはファイアボルトに跨り、地を蹴って空へと戻った。リンチが回復したことで、アイルランドは心機一転したようだ。
モスタファー審判が再び、ホイッスルを鳴らすと、チェイサーがとても素晴らしい動きを見せた。それからの15分、試合はますます速く、激しい展開を見せ、アイルランドが勢いづいて10回のゴールを決めた。
百三○対一〇とアイルランドがリードしたので、試合は次第に卑劣さを増してくる。マレットがクァッフルをしっかり抱え、またまたゴールめがけて突進すると、ブルガリアのキーパー、ゾグラフが飛び出し、彼女を迎え撃つ。
『なに?』
あっという間の出来事だった。アイルランド応援団から怒りの叫びがあがる。モスタファー審判が鋭く、長くホイッスルを吹き鳴らしたため、それが反則だったということがわかった。どよめく観衆に向かって、バグマンが解説する。