第80章 クィディッチ・ワールド・カップ
ついに試合が始まった。こんなクィディッチの試合振りは見たことがない。選手の動きが信じられないほど速いのだ。チェイサーが、クアッフルを投げ合うスピードが速すぎて、解説のバグマンは名前を言うだけで精一杯の様子。
「トロイ、先取点!一○対○、アイルランドのリード!」
そう言うバグマンの声が轟き、スタジアムは拍手と歓声の大音響に揺れ動く。
「えっ?だって、レブスキーがクアッフルを取ったのに!」
「ハリー、普通のスピードで観戦しないと、見逃すわよ!」
戸惑った様子のハリーに、ハーマイオニーが叫ぶ。トロイがフィールドを一周するウイニング飛行をしていて、ハーマイオニーはピョンピョン飛び上がりながら、トロイに向かって両手を大きく振っていた。
サイドラインの外側で試合を見ていたレプラコーンが、またもや空中に舞い上がり、輝く巨大なシャムロックを形作る。グラウンドの反対側で、ヴィーラが不機嫌な顔でそれを見ていた。
「始まったわ!」
ハーマイオニーの声に前を見ると、試合が再開された。アイルランドチームのチェイサーの一糸乱れぬ連携プレーで、開始から10分で、アイルランドはさらに2回得点し、三〇対○と点差を広げた。
緑一色のサポーターたちから、雷鳴のような歓声と嵐のような拍手が湧き起こる。試合運びがますます速くなり、しかも荒々しい様相を呈してきた。ブルガリアのビーターの2人、ボルコフとボルチャノフは、アイルランドのチェイサーに向かって思い切り激しくブラッジャーを叩きつけ、三人の得意技を封じはじめる。
チェイサーの結束が二度も崩されてバラバラになってしまった。そして、ついにイワノバが敵陣を突破し、キーパーのライアンをもかわしてブルガリアが初のゴールを決める。
「耳に指で栓をして!」
アーサーさんが大声で言った。ヴィーラが祝いの踊りをはじめたからだ。しばらくしてまた試合が始まる。
「ディミトロフ!レブスキー!ディミトロフ!イワノバ...うおっ、これは!」
唸り声をあげたバグマン。十万人の観衆が息を呑む。2人のシーカー、クラムとリンチがチェイサーたちの真ん中を割って一直線にダイビングしているのだ。その速さは、飛行機からパラシュートなしで飛び降りたかのよう。
「地面に衝突するわ!」
ハーマイオニーが悲鳴をあげた。私も口に手を当ててハラハラと見守る。