第79章 パフォーマンス
「ハリー・ポッターさま、屋敷しもべは楽しんではいけないのでございます。屋敷しもべは、言いつけられたことをするのでございます。わたしは、ハリー・ポッターさま、高いところがまったく好きではないのでございますが...」
そこで言葉を切ったウィンキーは、ボックス席の前方をチラリと見てゴクッと生唾を呑み込み、言葉を続けた。
「...でも、ご主人さまがこの貴賓席に行けとおっしゃいましたので、わたしは来ましたのでございます」
「君が高いところが好きじゃないと知ってるのに、どうしてご主人様は君をここに寄越したの?」
ハリーは、眉をひそめる。
「ご主人さまは...ご主人さまは、ご自分の席をわたしに確保させたのです。ハリー・ポッターさま、ご主人さまはとてもお忙しいのでございます」
隣りの空席のほうに頭を傾けたウィンキー。
「ウィンキーは、ご主人さまのテントに戻りたいのでございます、ハリー・ポッターさま。でも、ウィンキーは、言いつけられたことをするのでございます。ウィンキーは、よい屋敷しもべでございますから」
ウィンキーは、ボックス席の前方をもう一度恐わごわ見て、それからまた完全に手で目を覆ってしまった。
「そうか、あれが屋敷しもべ妖精なのか?へんてこりんなんだ、ね?」
ロンが呟く。
「ドビーは、もっとへんてこだったよ」
そう言ったハリーの言葉に力が入っていた。私はロンに、'私の家に来たことあるんだから屋敷しもべ妖精を見たことあるでしょう'と思ったが言わなかった。ロンは万眼鏡を取り出し、向かいの観客席に居る観衆を見下ろしながら、あれこれ試しはじめる。
「凄いよ!あそこにいるおっさん、何回でも鼻をほじるぜ...ほら、また...ほら、また...」
『やだ、ロンってば』
一方、ハーマイオニーは、ビロードの表紙に房飾りの付いたプログラムに熱心に目を通している。
「試合に先立ち、チームのマスコットによるマスゲームがあります」
ハーマイオニーが読み上げた。それを聞いてアーサーさんが答える。
「ああ、それはいつも見応えがある。それぞれのチームが、自分の国から何か生き物を連れて来てね、ちょっとしたショーをやるんだよ」
それから30分のあいだに、貴賓席も徐々に埋まってきた。アーサーさんは、続けざまに握手していた。かなり重要な魔法使いたちに違いないだろう。