第79章 パフォーマンス
熱狂的な興奮の波が、次々と伝わってきた。大声で話したり、ふざけたりしながら、私たちは森の中を20分ほど歩いた。ついに森のはずれに出ると、そこは巨大なスタジアムの影の中だった。
競技場を囲む壮大な黄金の壁のほんの一部しか見えていなかったが、この大きさだったら大聖堂なら10個は充分にすっぽり収まるだろうと思える大きさだ。圧倒されているハリーの顔の表情を読んで、アーサーさんが言った。
「十万人入れるよ。魔法省の特務隊五百人が、まる1年がかりで準備したんだ。マグル避け呪文で少しの隙もない。この1年というもの、この近くまで来たマグルは、突然急用を思いついて慌てて引き返すことになった...気の毒に」
アーサーさんは最後に愛情を込めて付け加える。アーサーさんが先に立って、一番近い入口に向かったが、そこにはすでに魔法使いや魔女たちが群がり、大声で叫び合っていた。
「特等席!最上階貴賓席!アーサー、真っ直ぐ上がって、一番高いところまでね」
魔法省の魔女が入口でチケットを確認しながら言う。観客席への階段は、深紫色の絨毯が敷かれていた。一行は、大勢に混じって階段を上がる。途中、観客が少しずつ、右や左のドアからそれぞれのスタンド席へと消えて行った。
ウィーズリー家の一行は上がり続け、いよいよ階段の天辺に辿り着く。そこは小さなボックス席で、観客席の最上階、しかも両サイドにある金色のゴールポストのちょうど中間に位置している。紫に金箔の椅子が20席ほど、2列に並んでいた。私達は、前列に並んだ。
「ドビー?」
景色を見ていた私は、ハリーが半信半疑で呼び掛けた声に反応してそちらを見る。後ろの列の、奥から2番目の席に、キッチン・タオルをトーガ風に被っていて、顔を両手で覆っている屋敷しもべ妖精がいた。しもべ妖精は、顔を上げ指を開く。すると、とてつもなく大きな茶色の目と、大きさも形も大型トマトそっくりの鼻が指のあいだから現れた。
「あなたさまは、わたしのこと、ドビーってお呼びになりましたか?」
しもべ妖精は指のあいだから疑わしげに、甲高い声で尋ねる。ドビーの声よりもっと高く、か細く、震えるようなキーキー声だった。おそらく、女性だろう。ロンとハーマイオニーが振り向きよく見ようとし、アーサーさんでさえ興味を持って振り返った。
「ごめんね。僕の知り合いじゃないかと思って」